| T.冬の記憶 八ヶ岳大同心正面壁 1973年1月中旬撮影 冬の大岩壁に挑むための小手調べのような登攀だった。午後から登り始めて3ピッチ目が終わった岩棚で夜を明かした。高さ200メートルにも満たない壁でビバーグした理由が今は分からない。朝から取り付けば昼頃には終わってその日のうちに帰京できるはずなのだが…。 ![]() 新宿発の長野行、いつもの夜行列車でやって来たが、今にも泣き出しそうなその日の空模様のようにIの体調もいまひとつだった。のろのろと歩いて赤岳鉱泉にたどり着いたときには雪が舞っていた。小屋を素通りしてそのまま取り付きに向かい、ロープを結び合ってようやく I にスイッチが入った。とはいえ、やっぱりスタートが遅すぎた。エビノシッポに覆われて凍り付いた岩壁にルートを探すうち日が落ちた。 正月の八ヶ岳では内張りしたテントの中でマイナス20度近い寒さを経験している。1月も半ばといえばさらに寒いはずだし、写真もいかにも寒そうだが、なぜか寒気に震えたような記憶はない。それは私の認知症の兆候なのか、それとも燃えるような若さの故だったのか、それを確かめ合える相手はもういない。 ![]() ![]() |