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赤岳

八ヶ岳の「八」は数の多い意で、南北のほぼ一線上に噴火した多くの火山の総称であり、その盟主が赤岳である。八ヶ岳の他の山々、阿弥陀岳や権現岳のいかにも宗教色を感じさせる名前からすると、盟主にしては即物的な名前だが、火山性の岩や土からなる赤褐色の山肌が、朝夕の陽に焼けるとき、荘厳そのものの赤に染まるのを古人は素直に名前にしたのだろう。

赤岳の周囲の山や登山道は、この盟主を望む絶好の展望台で、どれもが一級品で甲乙をつけがたい。ところが、人の住む山麓から、赤岳だけに焦点をしぼって好展望地を決めるのは比較的簡単である。

赤岳からほぼ南南東に引いた直線上の、頂上から9キロから15キロくらいまでの間、直線の両側に離れてもせいぜい1キロくらいまで、具体的には、山梨県の大泉村と高根町にその範囲はある。すなわち私の住所である。なあんだ、ただの身びいきじゃないかというなかれ。さんざん山麓を歩き回って得た結論である。

この範囲から眺める赤岳は、三ツ頭から天女山へと優美に延びた稜線の奥に、両翼に阿弥陀岳と横岳を従えた姿でぐいっと身を乗り出し、王者の貫禄である。左右の広がりが適度なので全体が冗漫にならず、山並みを縦に見るので奥行きが出る。前景のおとなしさと後景の荒々しさが好対照をなし、ことに雪の季節、黒い尾根の向こうに白銀の赤岳が顔を覗かせるのは圧巻である。東へ行き過ぎると八ヶ岳南部の全体像を眺めるにはいいが、こと赤岳に関しては焦点がぼける。南へと移動すると権現岳に隠れ、西側信州へ入ると、もう主役は阿弥陀岳である。御柱祭の材木を切り出すのが阿弥陀岳の尾根からなのもそのせいだろう。

さて、深田久弥をして「本州中部で、この頂上から見落とされる山はほとんどない」と言わしめた赤岳頂上に立つと、まさに天空に放り出されたような感がある。火山ゆえの山の浅さが幸いし、中部地方のど真ん中という立地とあいまって、四囲の眺めはこの上なく広濶である。逆に考えれば、ここから見えているすべての場所から赤岳が見えることになる。

富士山と八ヶ岳の裾野の雰囲気はそっくりだが、中心に富士山があると、いかにも日本そのものの風景となるのに対し、八ヶ岳があると、なんだか日本離れした風景にも感じられるのは妙だ。八ヶ岳を好んだ文人たちに、一様に西欧系のエキゾチシズムが感じられるのはこれと無関係ではあるまい。この山の裾野を選んで住まう私自身、日本の山を好むことは人後に落ちないと思いながらも、その傾向は否めないのである。

ガイド

山梨県側からは見た目の険しさに応じた難しさがある。一般的には、長野県側JR中央線茅野駅からバスで美濃戸口へ。林道歩き1時間で美濃戸着。柳川南沢に沿って約2時間、はじめて姿を現す赤岳の姿が素晴らしい。このすぐ先の行者小屋から赤岳には3本の登山道がある。どれをとっても2時間内外で頂上へ立てる。健脚なら日帰りも可能な山ではあるが、小屋はそれこそふんだんにあるから、1泊2日で阿弥陀岳や横岳、硫黄岳を組み合わせたプランを考えるといいだろう。

茅野市役所(0266)72-2101


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