角間山(嬬恋田代)

浅間連山方面が遠く感じるのはなじみの薄いせいだったが、最近ではわりとひんぱんに訪れるのでそれも解消しつつある。実際、ロッジから湯ノ丸山登山口の地藏峠と大月駅は同じ距離なのである。ならば信州中部の広濶な展望がより魅力的なのは言うまでもない。

地藏峠では湯ノ丸山に向かうのであろう登山者が何人もウロウロしていたが、角間峠の登山口の駐車場には車は1台もなかった。ここからも湯ノ丸山には登れるが1時間余分にかかるとあっては無理もない。しかしこちらの目的地は角間山である。初めての山だからそれがどのくらい登山者を集める山だかは知らないが、登山口の道標も簡素なもので、さほど入山者が多いようには見えなかった。

実際、人出の少ない9月とはいえ、終始誰にも会わなかったのだから、それほど人気のある山でもないのだろう。人気の山のすぐそばに静かな山があるという典型だろうか。もっとも、角間峠には立派なあづま屋もあったりしたので、花のシーズンにはにぎわうのかもしれない。地図を見るとこの山は県境ではない純然たる群馬県の山で、これは木曜山行では初めてのことだと思う。

落葉松の植林地を抜けると一気に高原情緒たっぷりの風景となって、傾斜もゆるく実にのんびり歩ける。角間峠からは笹原の一本道をゆるく登っていく。頂上直下の一部分のみ、かつての名残であろう黒木の森を抜けるのがいいアクセントとなって、頂上の明るさがなお際立つ。

頂上からは上越国境方面のみ雲がかかるだけで、湯ノ丸烏帽子に隠される部分以外は文字通りの大展望である。御嶽山から北アルプスの北の果てまで、富士山とその手前に重なる瑞牆山金峰山、湯ノ丸山に半分隠されているのは八ヶ岳、その稜線にわずかに顔を出すのは北岳か甲斐駒か。烏帽子岳に半分隠れているのは美ヶ原、北には目前に四阿山根子岳、その向こうに頸城の山々と草津白根、もちろん浅間山は近い。

あまりの大展望に立ち去りがたく、1時間半もの頂上滞在となった。径がいいので下りは早い。ぐんぐん下って、登山口の鹿沢温泉にドブンと浸かって大団円とあいなった。

保福寺峠〜二ツ石峰(三才山)

予定では大日岩だったが、横山夫妻も加わることになったので、それなら少々行程がきついかもしれない、参加予定のおとみ山と山歩大介さんが大日岩にはこの2年の間に行ったばかりだし、ならば行き先を変えても問題はあるまいとなった。

相談の結果、保福寺峠から二ツ石峰に行こうとなった。横山さんは8年ぶり2度目(そのときのことは『山の本』53巻にある)、我々はもちろん初めてである。今回は松本側から保福寺峠に上がることにしたが、横山さんは前回青木村側からの往復だったので、峠への車道については初めてとなる。

保福寺峠へは、あとで調べたらロッジから100キロあまりで、これは塩山の奥に行くのと変わらないのだが、やはり慣れない道は遠く感じる。えらい山奥に来たと思った。しかし松本側の車道はすれ違いに気を使うというほどの細道ではなく走りやすい。青木村側はかなり悪路だという。

明治24年にウエストンが保福寺峠を越えたとき、峠からの北アルプスの大観を絶賛したというので、「日本アルプス絶賛の地」と彫られた碑がここにあるが、あいにく山々は雲に埋もれていた。

保福寺峠から十観山に至る尾根を歩く人はあまりいそうにないと思ったのは登山道がさほど踏まれていなかったからだった。車で行くしかないところだが、縦走するなら配置に手間がかかりすぎるからだろう。

二ツ石峰へは2度の急登があるが時間はさほどかからない。落葉松の植林が多いが、気候のせいか森がしっとりとして、落葉松にも苔がはりついている。地面が柔らかいのは何よりで、気分よく歩けた。

二ツ石峰には三角点があるだけで展望もないが、山名標もないのは好ましく、静かな山頂をひとしきりにぎやかにして昼を過ごした。

帰りがけにはウエストン碑と峠名の由来となった保福寺を見学、ちょっとした歴史の山旅を終えた。

境沢ノ頭・三角コンバ(大菩薩峠・笹子)

大菩薩連嶺主稜と日川を隔てて西側に並走するのが日川尾根で、要するに日川右岸尾根ということになる。大菩薩嶺のすぐ南、雷岩から発する唐松尾根がその始まりで、それが初鹿野まで達するのだから、その長さは大菩薩連嶺主稜に匹敵するわけだが、唐松尾根付近以外はまず一般には縁遠い山域といえるだろう。

ダムや送電鉄塔建設で北部は魅力を減じたが、源次郎岳分岐あたりから南には気分のよい樹林が残っているのは、数年前に林道嵯峨塩深沢線を利用して歩いて確認した。今度はそれを南につなげてみようというのが今回の木曜山行の計画であった。車が高いところまで登るので、山登りというよりは山歩きである。

甲斐大和駅で横山、深田両夫妻と合流、日川沿いに遡る。林道が日川尾根を乗り越すあたりは伐採されて大菩薩主稜がよく眺められた。歩き始めは少々藪っぽかったがやがてそれもなくなり、しっとりとした樹林の下に薄い踏跡が続いた。最初のピークは無名だがこの日の最高点である。ところがその大きさをはかりそこねて、それが後々まで自分の位置に首をかしげる原因となった。

尾根上にはミズナラの大木が多く参加者からは感嘆しきりであった。境沢ノ頭、三角コンバと柔らかい地面の尾根歩きが続く。三角コンバで終わりにしようかと思ったが、ものはついでと南の三角点峰まで行って、そこを折り返し点として長い昼休みをした。

帰り道は地図と自分の感覚の違いがどこに起因したのかを確かめながらで、結局前述したとおり、最初のピークを間違えていたことがわかった。わかってしまえば何のことはないが、最初のつまづきからどうも勝手の違った山歩きとなってしまった。そこでこの日の最高点でありながら無名なこの峰を「錯覚コンバ」と名づけることにした。

日向山(長坂上条)

日向山はいい山だが、さすがに十数回も登れば同じ登山道では新味はない。そこで試しに田沢川左岸尾根から頂上を目指したのが4年前の春先で、その樹林の良さに感激し、さっそく同じ年の新緑の時季に木曜山行の計画に入れた。そのときにこの掲示板に書いたのが以下の文章だった。

「新雪を踏んだ4月にはまるで殺風景だった森がなんと劇的に変わったことだろう。緑、緑、緑、実にさまざまな緑にあふれている。登りに選んだ田沢川の左岸尾根は、樹林のよさ、径のよさ、ともに出色の登路である。ほとんど歩かれることのない径がこれだけ完璧なことは滅多にない。すばらしい樹形のブナに思わず足をとめたことも何度かあった」

新緑がいいなら黄葉紅葉はもちろんいいに決まっている。そこで秋にも登ろうと考えているうちに4年もたってしまった。

尾根には木を曳いた道が残っており、それをたどるわけだが、前回はその入口がわからず、尾根まで急斜面を這い上がった。そこで今回は入口を探しながら、これだろうと思われる踏跡に入ったが、それも途中で消え、尾根に乗るまではやはり適当に登ることになった。もっとも、藪を分けるほどではない。

とにかく樹林がすばらしい。今秋は黄葉が今ひとつなので尾根の下部ではさほどではなかったが、登るにつれてあたりの風景は絢爛と言ってもよくなってきた。下が笹原になって踏跡も明滅するようになってからは、ここがあの日向山かといった、奥深い山にでもいる感じである。矢立石から登る倍は時間がかかるが、その良さは倍どころではない。

林がだんだんなくなって雁ヶ原の下部に出る。白砂を踏んで頂上に着くと今日初めて人影を見ることになった。それでも秋の盛りのわりには静かなものであった。頂上では去年ロッジに泊まっていただいた人たちと会う奇遇があった。

登山後は尾白の湯へ寄ったが、この露天風呂からはたどった尾根がすべて見えるのだからおもしろい。これは珍しい特典といえるだろう。

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