三峰山縦走(和田・霧ヶ峰)

霧ヶ峰から美ヶ原にかけて草山多しといえども、その随一は三峰山である。蝶々深山付近や美ヶ原のような広さはないが、言わばそれらは高原であって、しっかりした山容を持った山としてはまず三峰山を挙げねばなるまい。

野焼きが行われていた時代には文字通りの草山だったのだろうが、今では全山を覆っているのは丈の短い笹で、それでもその緑が鮮やかになる夏にはことに美しい。三峰展望台あたりから見上げると、数本の灌木が山腹にある以外はただ一面の笹原が柔らかな曲線を描いている。

その三峰展望台から登れば、ゆっくり登ったとしても30分足らずの山だが、不思議なことにここから登らせようとする道標ひとつないので、意外に登山者は少ない。おそらく少ない駐車スペースに車を置いて山に行かれてはドライブインとしては営業に差し障るので、わざわざ道標を置くこともしないのだろう。

おかげで今までにここから十回以上も登ったはずだが、他の登山者に出会ったことはほとんどない。しかし、半日の山とするにはいくらなんでも行程が短すぎる。そこで木曜山行に計画するにあたって、扉峠から登ることを考えた。問題となるのは車の回収だが、自転車を使うことにした。三峰展望台に自転車を置いて扉峠に下り、そこから登山、展望台に下って自転車で車の回収というわけだ。扉峠までほとんどが下りなので労力はあまりいらない。この方法はいろいろな山で使えるので、中古の折りたたみ自転車を買った。

梅雨の晴れ間というには好天が続く。夜には降っても朝には日が射している。地元を出発するころにはまだ雲が厚かったが、霧ヶ峰にさしかかるころには青空がのぞきはじめ、歩きだしたときにはもう夏の朝の日射しであった。

扉峠から始まる三峰山への径は、そのほとんどがビーナスラインに接しているため、車の音が耳障りかと思っていたが、平日ならさほどの交通量でもなく、ほとんど気にならなかった。径はまだ刈り払いがされたばかりで歩きやすく、森の雰囲気も上々である。

三峰山の手前の峰で森を抜ける。広がる大展望、北アルプスが雲間に見え隠れしている。日差しは強いが、そこそこの涼風が吹いて気持ちがよい。

三峰山の頂上には昼前に着き、1時間を越える大休憩となった。頂上一帯には柔らかな草原が残っている。ここでも涼しい風が吹いていた。折りしも径の刈り払いをしていた作業員以外には誰もいない。

さあ、下ろうというころには仙丈岳も見え出した。和田峠へと続く緑の稜線、まだ午後1時である。このまま三峰展望台に下って終わりではいかにももったいない。和田峠へ下ったらどうですか。その提案に一同賛成、私ひとりが車の回収に向い、残りは和田峠へと歩くことにした。

そんなわけで期せずして三峰山縦走が達成でき、上々の首尾となったのである。旧中仙道を下ってきた人たちと再び会ったとき、一段と日焼けしているようにみえた。


水の塔山・篭ノ登山(車坂峠)

2年前湯の丸山に登ったときには、出発点の地藏峠は霧の中、頂上まで登ったが、結局何の展望も得られなかった。雨も降り出して傘をさしての下山となった。そこで捲土重来、お隣の篭ノ登山を計画した。

遠い山まで出かけるのに、前回と似たような天気では困ったものだと思っていたのが、最近の木曜山行はついている。直前の予報では、それまでの予報はいったい何だったのかというような晴れマークが並んだ。

夜半にはかなり雨脚が強かったのが、早朝にはきちんとやんで、梅雨明けを思わせるようなさわやかな夏の朝となった。こうなれば、現地に着いたころ晴れ上がればちょうどいいのにと注文したくなるのだから人は欲深である。

千曲川が佐久平に流れ込むと前方の眺めが広くなり、浅間連山がずらりと並んだ。地藏峠へは標高差1000mの一気登りで、力のないロッジ山旅号は青息吐息である。

当初の計画では池ノ平から篭ノ登山を往復して、余った時間で池ノ平の湿原でも散策するつもりだった。第二案として、池ノ平に自転車を置いて車坂峠まで行き、水ノ塔山から篭ノ登山へ縦走して池の平へ下るというのも考えていた。池の平に着き、その駐車場が有料で、バスを含めすでに多くの車がとまっており、小学生の団体など大勢が群れているのを見た瞬間、計画は後者と決めた。自転車を池ノ平へ置いて車坂峠へ進む。

ほとんどマイカーで来るしかない山は縦走が厄介である。水ノ塔、篭ノ登の縦走はぐっと人が減るだろうと思ったのが的中、10人程度の登山者と山中ですれ違ったのみで、ごく静かな山歩きができた。池ノ平の駐車場に車を停めていた人の多くは、湿原散策をする人だったようである。

亜高山の花も多く、見つけるたびに立ち止まる。いつもと逆の方角から見る八ヶ岳や霧ヶ峰の姿も面白い。さほどの距離を歩くわけでもないので、たっぷりと時間をかけて山を楽しむ。このあたりの山には馴染みのない私にとって、実に新鮮な気分で山歩きをすることができた。

下山後に立ち寄った、千曲川左岸の高みにある温泉の湯船からは、浅間連山がずらりと眺められた。昼食休憩とした水ノ塔山のガレ場(赤ゾレと呼ばれているとガイドブックで知った)の淵を、ついさっきまであそこにいたのにと、面白く眺めたのであった。


大日岩〜八丁平周遊(瑞牆山)

さほど良い予報でもなかったが、3日間雨が降り続いたのでそろそろ晴れ間が出るだろうと楽観的に考えていたのが本当になった。しかしこんな天気続きでは登山に来ようという人はいない。停まりきれずに道路にまで車があふれることもある瑞牆山の駐車場に1台の車もなかった。

金峰山に登るとき大日岩の横を何度通り過ぎただろうか。行きがけは先を急ぐのでその上に登ってみることもなく、帰りがけにはもう充分金峰山で展望を楽しんだ上に、足も疲れているからわざわざ立ち寄ることもない。金峰山の稜線にあるから、瑞牆山とほとんど同じ標高があるというのに、ひとつの山として顧みられることもない。そんな大日岩をじっくり味わおうというのが今回の計画であった。

富士見平へと向かう径は長雨で川のようになっていた。富士見平にあった環境庁の無用に大きい看板がなくなっており、すっきりしていた。大日小屋の前で空が開けると、同時に雲間から日が射した。縦八丁の登りには、遅咲きのシャクナゲが残っていた。

大日岩の根元で昼食を済ませたのち、岩のほぼてっぺん近くまで登ってから西側を巻いて八丁平への径に入る。ちょうどそのころ瑞牆山にかかっていた雲が取れはじめた。こうでなくっちゃいけない。しばし腰を落ち着けることにする。

その展望、その岩の造形、決して瑞牆山に劣るものではない。瑞牆山があふれんばかりの登山者でにぎわっているときも、ここはきっと静けさを保っているだろう。今まできちんとここに登ってみなかったのは実にもったいのないことだと思った。ここだけを目的にして、何の不満もない山だと思った。

ここから八丁平を経て富士見平へ戻るコースは、飯森山をぐるりと一周することになる。森の変化、景色のよさ、静けさ、どれをとっても第一級の山歩きコースだと確信した。

八丁平西の飯場跡では、東京から参加のSさん持参のソーメンを皆でいただくという豪華付録までついた。そしてついに駐車場に戻るまで誰ひとりにも出会わずに7時間あまりに及ぶ山歩きを終えたのであった。

硫黄岳(八ヶ岳西部)

木曜山行では2005年以来3回目となる硫黄岳である。最初は悪天で峰の松目にだけ登って終わりにし、2回目は頂上まで登ったが霧で展望は得られなかった。さて3度目の正直となるだろうか。

暑さを避けて早朝出発とする。桜平を歩き始めたのは7時過ぎ、針葉樹の森は朝の冷気で気持ちがよい。オーレン小屋を出るころはまだ朝もやがあたりを覆っていたのが、赤岩の頭への急登をこなすうちには雲が取れはじめた。背後に東西天狗岳が現れる。

赤岩の頭で横岳から阿弥陀岳にかけての大伽藍が初めて目に入る。これがこのコースの醍醐味といえるだろう。いつも見ている山並なのに、やはり近距離からの迫力はすごい。これが眺められてこそ、ここまで登ってきた甲斐があったというものだ。

前回とほとんど同じ時期だというのに、花の咲き具合は違う。いよいよ高山らしくなった光景を楽しみながら頂上へ到着した。広い頂上は、少しくらいの登山者では閑散とした雰囲気である。硫黄山荘方面に花を見に行く者、絵を描く者、ただ寝転んで景色を楽しむ者、おのおの好き勝手に過ごし、結局2時間もの頂上滞在となった。

夏沢峠への下りでも北方の眺めを存分に楽しみ、今回の硫黄岳は文字通り3度目の正直の登山となった。

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